副業解禁その前に、企業が受けるメリットとデメリット

副業解禁その前に、企業が受けるメリットとデメリット

企業目線で考える、副業・複業のメリットとデメリット

個人において、副業・複業のメリットはたくさんありました。同時にデメリットと考えられる部分も存在します。一方で企業側から見ると、副業・複業におけるメリット・デメリットは何があるのでしょうか。副業ブームといえる盛り上がりを見せる中で、会社や経営者が考えている副業・複業についても触れてみましょう。

複業・副業を禁止するのは時代遅れ?

ロート製薬やカルビーといった、いわゆる大手企業においても、副業解禁の波がやってきました。大企業ばかりではなく、むしろ先に複業・副業に目をつけたのは、設立から数年程度のベンチャー企業が多かったように思います。

先に紹介したヤフーの他、フリマアプリで知られる『メルカリ』や「社内のコミュニケーション活性化」をテーマにソフトウェアを提供する『サイボウズ』などが有名ですね。

また3年ほど前に話題になったのが、『専業禁止』を掲げる株式会社エンファクトリー。オンラインショッピング事業展開する同社は、「社員の半数以上が、別の働き口を持っている」そうです。

大企業こそ副業を推奨せよ!?「専業禁止」を掲げるエンファクトリーの成果。
引用:CAREER HACK

非常に先進的な取り組みを3年以上前から実践していたのですから、ちょっと驚きです。わたし自身も数年前にエンファクトリーを取材させていただいたことがあります。引用した記事にも登場なさっていますが、副社長自らが複業をしているというから驚きです。

しかし一方で、実態として多くの企業が副業を禁止しています。リクルートキャリアが中小企業庁からの依頼で調査した『平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業報告書』によると、副業を許可していない企業が96.2%、容認している企業はわずか3.8%、推奨している企業はゼロという散々たる結果でした。

ただ後の調査によると『正社員の副業、48.1%の企業が容認!?【働き方新時代の実態調査】』という結果もあります。もっともこちらの調査は、クラウドソーシングサービスを展開するランサーズが主体なので、必然的に副業を許可している企業が多くなることは予想できるので、参考程度にとどめておくのが良いでしょう。

また情報ソースは同じくランサーズですが、『副業・兼業を行う人過去最高の744万人に』というNHKニュースがあったのは2018年4月以降。確実に副業・複業を許可する企業が増えていると考えられます。

企業側の方々で、自社での副業導入を検討している場合、『企業のための 副業・兼業 労務ハンドブック』を一冊購入なさってはいかがでしょうか。本稿でも触れますが、社員が副業をする場合、労務問題の解決が避けられません。まずは知識として、人事部もしくは労務担当者内で共通認識を持っておくことをお勧めします。

複業・副業は、優秀な人材採用に有利

企業にとって一番のメリットと考えられるのが、採用活動におけるアドバンテージと対象者の拡大ではないでしょうか。単純に、複業・副業を禁止している企業と、推奨している企業であれば、同じ条件であれば容認企業を選びたくなるもの。また自社だけの専業者を求めるより、複業・副業をOKにした方が「副業を禁止している会社には入らない」という候補者を取り逃がす心配がありません。

実例として『株式会社メルカリ』においては、執行役員である掛川紗矢香氏が以下のような発言をしています。

「優秀な方は短時間でも効率的に成果を出せる」「副業禁止規定は、優秀な才能を摘みとってしまっている」

実際にメルカリでは、従業員の副業が推奨されているのです。同社で働く社員には、副業サイト運営や書籍執筆、イベント登壇などで収入を得ている人が多いそう。

また『株式会社エンファクトリー』においては、「専業禁止」を謳った結果、多数のテレビ・新聞・Webメディアでも取り上げられ、興味を持った人材からの応募が急増したそうです。

優秀な人材確保の選択肢を増やすためにも、複業・副業を許可する動きは活発化しています。ちなみに採用時だけではなく、すでに雇用している優秀な社員の流出防止にも一役買いそうですね。

優秀な人材は各所から引き抜きの声をかけられることも多いでしょう。面白そうな仕事・会社であれば、または給与など条件が良ければ、心移りしかねません。そこで複業・副業を許可しておくことで、興味を持った他社と自社を並行する道を用意する。離職率の低下が期待できるのではないかと思うのです。

従業員のエンゲージメントが上昇し、結果として自社が潤う

従業員のエンゲージメントとは、会社に対する忠誠心というと気持ちが悪いですが、自社に満足して働いている状態のこと。複業・副業容認によるエンゲージメントの向上は、ふたつの視点で実現するのではと考えられます。

ひとつは、「自社が複業・副業を推奨している先進的な会社だ」というプラスの気持ち。先に挙げた中企庁の調査結果からも、副業を容認している企業は一部です。しかし働き手にとって複業・副業は魅力的。推奨している企業がニュースになるわけですから、世の中からの注目度が高い取り組みです。本人が複業・副業に挑戦するかとは別の論点で、会社に対してポジティブなイメージを持つ社員が増えると考えられます。

もうひとつに、副業を通じて自己実現を図ることで、個々人がイキイキと働けるのではないでしょうか。将来への不安がなくなる、収入が増えることでプライベートが充実する、本業だけでは関わらなかった人との接点・刺激を受ける……。

なかには趣味や興味のある分野を仕事にしてみたいと思う人もいるはず。彼らにとって副業は、自己実現に近づく手段となります。週に一時間程度でも副業に勤しめば、楽しみや充実感を得て、従来以上に本業で成果を残してくれるかもしれません。あくまで可能性の話ですけど。

複業・副業でスキルアップ、自己研鑽の機会に

実は個人的に、これが一番のメリットだと思っているのですが、複業・副業を許可することで、従業員のスキルアップおよび経営視点を養うことに繋がります。また時間は有限ですから、生産性への意識も高まる。同じライフタイムの中で複数の仕事を手がけるわけですから、時間当たりの成果が高くなるはずなんです。あくまで可能性の話ですけど。

例えば本業が営業職で、副業でエンジニアリングを行なう場合。営業という仕事に直接の影響はありませんが、開発に対する理解が深まります。自社のエンジニアと共通の話題ができたり、言語について教えを請うたり。コミュニケーションの活性化に繋がるでしょうし、営業先へのアプローチ方法が変わるでしょう。

違う仕事を経験することで、新しいアイデアが生まれる可能性もあります。新しく見えるものでも、いまとなっては既存と既存の組み合わせであったり、何かのリプレイスというケースがほとんど。複業・副業を実施することで、アイデアの着想が豊かになると期待できます。

また本格的に複業を始めれば、本人が本業で担う役割(職種)だけではまかなえない仕事が発生するでしょう。経理・財務といったお金まわりの知識と実務が必要ですし、営業や宣伝・広報、制作関連の仕事も必要となります。ひいては経営について考えるようになり、自社においての目線も上がってくる。スキルアップと共に、考え方や視座を高く持つことにも繋がるのです。

副業禁止にも納得できる? デメリットについて考える

複業・副業を容認するメリットについて考察を述べましたが、反面のデメリットも忘れてはいけません。大きくは2つ、体力と情報管理におけるデメリットが考えられます。

複業・副業は、体力的にキツいかも……

何度も記載していますが、人の時間は有限で、1日当たり24時間と決まっています。同じ時間が流れるなかで、複数の仕事をするとなると、何かの時間を削らなくてはいけません。

人によって選択はことなりますが、睡眠時間であったり、休憩時間であったり、趣味の時間であったり。なかには本業の時間を削ってしまう、けしからん人もいるかもしれません。

睡眠時間や休養時間が充分でなければ、いうまでもなくいずれは体調面での悪影響が想定されます。体力のある・なしは個人差があるわけで、AさんはできてもBさんができるとは限らない。1日5時間睡眠で充分な人がいれば、8時間眠ってもつらい人もいるわけです。

また趣味の時間を削減することも、ゆくゆくはデメリットになる可能性があります。仕事と趣味、ワークライフバランスがどうのこうのというつもりはありませんが、ストレスから解放される術やリフレッシュの手段を失うことで、本業に対しても悪影響を及ぼすかもしれません。

いずれにせよ、働きすぎは良くないですし、メリットのひとつで挙げた『新しい発想』という、イノベーションの可能性が低くなりそうで怖いですね。

一番の不安は、情報管理や信用面でのデメリット

企業として細心の注意が必要なことに、情報管理が挙げられます。本業と複業・副業にカニバリ(カニバリゼーション)がある場合、自社の重要機密が流出する可能性も無視できません。新商品に関するアイデアが自社にあるのに、開発リソースの問題で実現できないというケース。往往にしてありますよね。わたしの会社でもたくさんあります。「エンジニアがイケてない」「生産ラインが貧弱」「管理部がお堅い役所のようで……」と嘆きの声が聞こえてきますが、複業先ではリソースが潤沢にあった場合。実現可能な複業先でサービスなり企画を形にしたくなるかもしれません。

また信用という側面でも不安なことがあります。そもそも取引先が複業・副業に反対している場合、「自分の会社以外に時間を使っているなんて、うちとの取引を本気で考えていない!」とおかんむりになられるかもしれません。そんな頭の固い企業は無視するとしても、たとえば社員の副業が『性風俗店』だったらどうしましょう。

取引先や株主がお店に行ったとき「あれ。君は●●社の事務をやっている……」なんてことになったら。まぁ、株主や取引先の人が風俗店に行っているわけですから、とやかく言われる筋合いはない(そもそも、風俗店が悪いとは思っていません。大好きです)んですけど、やっぱりちょっと気まずい。もしくは「あの会社の営業の女の子、ソープランドで働いてるんだぜ」なんて噂になると、会社にとって良いことは少なそうです。

法定労働時間にも注意が必要

もうひとつ注意点として紹介したいのが、先に軽く触れましたが、労働時間の問題があります。副業により、労働基準法で定める労働時間を超えてしまうことで、企業として罰せられる可能性もあるのです。

労働基準法では、1日8時間以内、1週間40時間以内の労働時間に収めるよう決められています。この労働時間は労働基準法38条1項によると、本業も複業も副業も通算でカウントされることに注意が必要。

例えば本業で1日7時間の勤務、副業で1日3時間の勤務をした場合、法定労働時間を超える部分においては、割増賃金の支払いが必要になるわけです。企業側にとって副業を許可するのは、それなりの覚悟と管理が必要そうに思います。

副業のメリットとデメリットを理解した上で挑戦するのでしたら、こちらのページから副業・複業ができるサービスを探してみてはいかがでしょうか。現場からは以上です。