独自ルールは許される? 言葉遣い、表記ルールは何に従うのが正解か

独自ルールは許される? 言葉遣い、表記ルールは何に従うのが正解か

最初にタイトルを、『読み間違えないために言葉づかいにこだわろう』としていたのですが、「ああそうだ。これは理解できる文章のためのブログだ」と思い出しました。よって『こだわろう』という安易な言葉遣いはいけないな、と思ったのです。そもそも『こだわる』という言葉の意味は、

こだわ・るこだはる:心が何かにとらわれて、自由に考えることができなくなる。気にしなくてもいいようなことを気にする。拘泥する。 「金に-・る人」 「済んだことにいつまでも-・るな」
引用:Weblio

ということなので、どちらかというとネガティブなときに用いられます。こだわりが『ない』ときに使われるのが、本来の意味。思わず間違った使い方をしそうになって、わたしもまだまだだと反省したところでした。

使い方が間違っていても、あえて利用する言葉と表記

言葉遣いは難しい。そのことを充分に理解しているので、こういうブログを立ち上げたわけです。本稿では正しい言葉遣い、から外れるけれども、読みやすさと理解しやすさのために、あえて崩した用法をしている言葉について紹介します。

ただしここで紹介するのは、あくまでわたし個人のこだわり。誰もがやるべきことではありませんし、メディアによっては誤用を指摘されて、信頼できないライターと思われるリスクもあります。言葉へのこだわりは個人の責任で、とことんやっていきましょう。

正しい表記は、用字用語辞典か媒体ルールに従う

どの漢字を使うのか、ひらがなにするのか、送り仮名はどこからかといった、単語の表記方法について悩むことはありませんか。ライターとして仕事をしている人であれば、基本的には辞書で使われている表記を選択するでしょう。

わたし自身も基本的には、共同通信社の『記者ハンドブック』を基準にしています。もしくは朝日新聞社が出している『朝日新聞の用語の手引』を参考にしつつ、語彙力に乏しいなと思ったときには、『類語大辞典』あたりを参考にするのが常です。どれも所持していないライターさんがいましたら、以下のページから購入を検討ください。ライターとして文章を書くのでしたら、必携の一冊ですよ(四冊紹介してますけど)。

日本語が時代とともに変化していることは、別の投稿で紹介しました。よって上記の辞書類も、毎年のように新しい版が出ています。ただし数年で大きく変わることはありませんので、一度購入すれば数年間は重宝します。

用字用語辞典をベースにしながらも、異なるルールで運用している媒体もあります。その場合はもちろん、媒体の表記ルールに従いましょう。特にWebメディアにおいては、独自のルールで運用されることが多い印象です。

独自ルールをつくるなら、確固たる理由を持つ

表記ルールの基本は、『記者ハンドブック』か『媒体ごとのルール』に従うとお伝えしました。しかしわたしには、勝手なこだわりというか、独自ルールがいくつか存在します。自社媒体もしくはわたしが編集権限を持っていない媒体に寄稿する場合は、媒体ルールに従いながらも「こういう意図で、こちらの表記をしています」と伝えてから提出しているんです。

独自ルールについて媒体社から、「当社では、こちらのルールで表記いただいてます」とつっぱねられたら、瞬速で取りさげます。指摘されなければ、もしくはご納得いただけたら、「しめしめ」と思いながら、わたしの表記ルールが広まることにほくそ笑んでいるわけです。

ただしわたしは芸術家や作家先生ではありません。自分の表現を押し通す必要はなく、本当につまらない自己満足でしかないのです。手前味噌で恐縮ですが、自己満足とはいえ、その根源は「読みやすい、理解しやすい文章にしたい」という想いからきています。

前置きが長くなりましたが、いくつかある独自の表記ルールを紹介させてください。つまらぬこだわりだと笑っていただいてかまいません。

行う→行なう

『行う』という表記は、普通に読めば『おこなう』です。でもわたしは、『行なう』と送り仮名を多く表記しています。意味は皆さんがご存知の通りです。物事をなすこと、やることですね。

行う[行なう]:物事をする。なす。やる。実施する。「儀式を―・う」「合同演習を―・う」「四月五日に入学式が―・われる」
引用:goo辞書

ではなぜ、わたしは送り仮名の多い『行なう』の表記なのかを説明します。本来であれば文字数を一文字でも少なくすることが、読みやすい文章の近道なのですが。理解しやすくするために、例文を用意してみました。

神奈川県に住んでいる彼は、今年の夏休みに新潟県まで行った。わざわざ遠方まで足を運んだのには、明確な理由がある。日本海に行ってみたかったからだ。もちろん神奈川県であれば、太平洋に面した海辺がいくらでもある。しかし私は、あえて日本海を選んだ。太平洋と比べたら波乗りに適した海ではないのだが、サーフィンを行った。

本当に適当で、なんの意味もない文章です。しかもあえて『行った』という単語を多用しました。注目して欲しいのは、最後の『(サーフィンを)行った』という部分です。普通に読むと、『(サーフィンを)いった』になりませんか? 該当部分に到るまでを、『行った』=『いった』という言葉で引っ張っているからです。

でも正しい読みは『(サーフィンを)行った』=『おこなった』になることは、すぐにわかっていただけるでしょう。しかし前後の文脈次第では、一度『いった』と読んでしまう。すぐに気が付いて「ああ、これはいったではなく、おこなっただな」とわかるのですが、一旦引き返すこと自体が無駄だと思うのです。

ですからわたしは、『行った』ではなく『行なった』と表記します。たかだか一文字追加するだけで、確実に読み間違いをなくせるのならと思って使用しているのです。

厳密にいえば『行う』の場合は『行なう』と表記する必要はないのですが、統一するためにも送り仮名の『な』を追加して記載するようにしています。

下さい→ください

ビジネスにおいて、メールやメッセージなど、毎日のように文章を使います。例えば営業職の人が見込み顧客に対して、『貴社の事業成長に貢献してまいりますので、是非ともご検討下さい。』などの文を送ることがあるでしょう。

わたしは同様のケースでしたら『〜〜是非ともご検討ください。』と表記しています。なぜならビジネスの文章だから。ビジネスということは、すべてが商売に関連します。物を売ったり買ったりして、業績を右肩上がりにしていくのが目的。

それなのに『下さい』と『下(がる)』文字を入れることに違和感があるのです。自分自身を下げるためであれば、『下さい』という表記をしてもいいのかもしれません。でもわたしは、とにかく上がっていたいので『下さい』の使用を禁じています。

話が少しずれますが同様の理由で、企画書などのグラフや表を作成するときには、文字やグラフの色に注意しています。中には目立たせる理由で、売上数字やグラフを『赤』で表現する人もいるでしょう。もちろん予算に対してビハインドしているのを明確にするのであれば、赤い字=赤字であることに意味があります。しかし、「業績を達成しましたよ!」と威張りたいときにまで、真っ赤な文字で表記してしまう。

この感覚が『下さい』の使用と同じで、商売に『下がる』や『赤字』を使うことへの違和感となっています。わたしには、ライターであったりコピーライターという職業は、サービス業だという仕事哲学が存在するのです。サービス業の人が商売を軽んじることは納得いかず、少しでも顧客の業績向上や楽、得に貢献するべきだと思っています。

十分→充分

こちらの表記も、誤読の可能性を1%でも削減することが目的です。想像がつくとは思いますが、一応、例文を作成してみました。

今日は猛暑日だったと、スマホで閲覧していたニュースが告げていた。夜になっても気温は高いままで、いわゆる熱帯夜になりそうだ。彼は待ち合わせ場所の交差点で立たずんでいる。時計をみると1時間が経過しており、もう十分だと思って帰路についた。

暑い日が続いていますね。エアコンの効きが微妙で、寝苦しい夜を過ごしています。この季節に外にいるのは、それだけで苦痛。ましてや待ちぼうけだなんて、なんとも怒りが込み上げてきます。

例文で注目いただきたいのは、最後の一文にある『(時計をみると1時間が経過しており、)もう十分だと思って(帰路についた。)』です。彼は時計をみて「ああ、もう10分か」と思ったわけではなく、「1時間も待ったから、もう充分(じゅうぶん)だ」と思って帰宅しました。

『十分』にしても『充分』、どちらも充足したという意味があります。それでも文脈次第で誤読の可能性があるのでしたら、わたしは『充分』を用いるようにしているのです。ただこの表記については、相手の知識レベルを見誤ると、そもそも読めない・意味を理解できない可能性があることも、過去の使用経験から申し添えておきます。

表記ルールに独自性があっても良いと思う

本稿では3個の独自表記ルールを紹介させていただきました。本当はまだまだ、たくさんの自分勝手ルールがあるのですが、残りはまたの機会に。表記の決まりは、媒体ルールに従うことが大前提です。それでもせっかくなら、自分自身のルールを持っているのも悪くない。

作家や芸術家ではありませんが、それでもライターやコピーライターという職業を選んだのですから、どこかに「表現をしたいんだ」という気持ちがあるでしょう。もしくは「伝えたいことがある」から、記事を書いていると思うので、表現や企画の伝わりやすさが目的であれば、多少のワガママは許されてもいいと思います。ライターなんて、吹けば飛ぶような安定しない職業ですから、少しくらいの自己満足はね。現場からは以上です。