企業内でマーケティングや営業として働く人、また経営者の方々たちであれば、インバウンドマーケティングという言葉を耳にすることが増えたと感じていませんか。情報リテラシーの有無に関わらず、見聞きする・用いる機会が増えてきたように感じます。
そもそもインバウンドという言葉は、外国人観光客を誘致する意味で使われてきました。それが今では、マーケティング施策の一貫として使われているのです。ところで、インバウンドマーケティングの基本的な情報を理解できていますか?
「インバウンドマーケティング」と言っておけば、ちょっと「デキる社会人っぽい」ようにも思えます。「雰囲気」「かっこいい」「流行り」で使ってしまいがちな人に向けて、インバウンドマーケティングの意味とメリット、使い方などをお伝えします。
攻めの営業と待ちの営業
インバウンドマーケティング(InboundMarketing)は、『マーケティング』という文字が表すように、マーケティング施策のひとつであることはご存知のとおり。
数年前にアメリカで提唱された、マーケティングの新概念です。この考え方が生み出されたことで、マーケティング施策に大きな変化が訪れました。
従来の商品やサービスを売りたい・広める手段は、見込み客を探し、説明・説得をし、買ってもらうという流れを追います。消費者との最初の接点を自らつくり出していく、攻めの営業スタイルととらえるのが一般的。
新しいマーケティング概念=インバウンドマーケティングは、将来の見込み顧客かもしれない人が、自分の意思で商品やサービスの情報に訪れる仕掛け。商品やサービスを見つけてもらい、電話やメールフォームで問い合わせてもらう方法で、待っているスタイルの営業といえます。
インバウンドマーケティングをざっくりいうと
従来のマーケティングで第一想起されるのは、広告出稿ではないでしょうか。マス媒体などへ広告を出す手法は、いわば『こちらから、顧客を獲得しにいく』営業スタイル。流行りのインバウンドマーケティングとは、消費者のほうから「見つけてくれる」マーケティングとなります。「商品やサービスに興味を持つ人々であれば、サーチエンジンでの検索や、Facebookをはじめとするソーシャルメディアで発見してたどり着く」ことを想定した施策です。
時代の潮流からしても、消費者に発見してもらう方法は、正しい選択だと考えられます。いうまでもありませんが、インターネットの爆発的普及やiPhoneに代表されるスマートフォンの普及が、検索という行為を『当たり前』の習慣化へと導いたのです。
具体的なインバウンドマーケティング施策として、サービスや商品の魅力を伝える情報をWebで展開し、消費者が検索することで該当ページに訪れてもらう方法があります。検索だけではなく、SNSでの発信で「知ってもらう」「探してもらう」、また拡散されて情報にたどり着くこと誘導する方法も、多くの企業やマーケティング関係者に活用されています。
さらに情報発信だけに留まらず、訪れたユーザーの購買意欲を醸成し、購入者へと育成する過程のすべてが、インバウンドマーケティングに該当すると考えられています。自分たちが執拗に営業行為を行なうのではなく、興味関心のある人に「たどり着いてもらう」ことからスタートするマーケティングの全容を、インバウンドマーケティングと位置づけているのです。
どうしてインバウンドマーケティングは注目・期待されているのか
インバウンドマーケティングに世の中の関心が集まった理由として、人々が情報を獲得する手段に変化が起きたこと、さらには消費者たちがとる行動にも大きな変化が発生したからだと言われています。
インターネットが身近になり、またスマートフォンが普及したことで、消費者は手軽に『検索して情報を得る』手段を手に入れました。GoogleやYahoo! といった検索エンジンを個人が駆使し、容易に情報を得ることが可能となったのです。
実際に商品やサービスを使った後であれば、感想やクレームまでもをtwitterやFacebook、LINEやブログで発信することも日常の行為になりました。企業側にとってアンコントローラブルな情報が、主観をもとにポストされるのが特徴です。
これは、誰もがメディアを持ったり、世の中に自分の考えや感じたことを共有できる時代が到来したことを意味しています。また、普通の人が自由気ままに情報発信できるようになったことで、一人ひとりが増れる情報の量も圧倒的に増加しました。
このような環境の変化やツールの進化は、マーケティング(やマーケティング担当者)に対して、不都合を生じさせた事実も気が付かないふりはできません。インターネットが生活に根付く以前と比べたら、取得する情報量は異様なまでに膨れ上がりました。ところが、人間の脳は劇的な進化は成し遂げておらず、処理・理解できる情報量は増えてはいないのです。
平成23年に総務省が発表した資料からも、個人が受け取る情報量の増加傾向が顕著に読み取れるでしょう。データによると、統計を開始した平成13年と比較して、8年後には流通する情報量が198%、消費する情報量は109%となっています。
流通している情報量は、うなぎのぼりで増えているのです。対して、個人が消費できる情報の量、使用する情報の量は、微増といったところ。流通量と消費量に大きな乖離が生まれているのです。
情報社会に移り変わったことで、人々の情報処理の仕方や消費する量が増えてきた面はあります。しかし、氾濫する情報のほとんどを、人々は消費できていないということなのです。
マーケティング視点でみると、従来のアウトバウンドマーケティングでは、適切に情報を届けることが難しくなったといえるでしょう。広告を配信して届ける技術、アドテクノロジーという手段が進化していますが、闇雲に広告を出すことでは効果が得にくい状況になっているのです。
そこで注目されはじめたインバウンドマーケティング。情報の提供者が伝えたいことだけ言う広告と違い、消費者が求める情報を届ける手法として期待が高まっているのです。
アウトバウンドマーケティングとはどう違う?
インバウンドマーケティングについての大枠をお伝えしたところで、アウトバウンドマーケティングがどうなるのか、インバウンドマーケティングとの違いについても掘り下げて解説します。
ここまでの紹介で、アウトバウンドマーケティング=古いマーケティング手法という認識ができあがったかもしれません。実際には現在も利用され、その有効性は否定できるものではありません。
アウトバウンドマーケティングの代表例としては、テレビやラジオCM、雑誌・新聞などのメディアに掲載する手法=広告が挙げられます。その他、いわゆる電話営業であるテレフォンマーケティングやメールDM、Webサイトのバナー広告なども該当します。飛び込み営業といわれる営業方法も、ある意味ではアウトバウンドマーケティングと呼べるでしょう。
消費者に見つけてもらうPULL型のマーケティングを『インバウンドマーケティング』、自ら消費者を獲得するPUSH型のマーケティングを『アウトバウンドマーケティング』と認識をしておけば大きな相違はありません。
インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングの違いは、「待ちの営業か攻めの営業か」「消費者が自ら訪れるのか発信者が捕まえにいくのか」が違いとなります。
アウトバウンドマーケティングは、もう終わりなの?
アウトバウンドマーケティングの衰退を主張する人もいますが、実情はどうなのでしょうか。インバウンドマーケティングの流行=アウトバウンドマーケティングの減少について解説してみます。
インターネットの普及やスマートフォンの登場、検索という行動の日常化によってインバウンドマーケティングが効果的になったのは先述のとおり。時代やテクノロジーの変化が主な理由です。『消費者が賢くなった』と考えることもできます。
例えば、あなたの自宅に訪問販売の営業がやってきた場合を想像してみましょう。新聞の勧誘でもマンションでもお墓でもかまいません。タイミング良くお墓の購入を検討していた……のであれば、なんら問題はありません。もしくはマンション購入を家族と話し合っていた場合も。
しかし検討のタイミングでなかった場合、わざわざ自宅まで押しかけてくるセールスにうんざりするでしょう。優れた営業担当にあたり、想定外の買い物をすることもあるかもしれませんが、多くの場合は不要な商品やサービスを紹介されても、押し売りをされているような気持ちになるもの。
メールDMやチラシの場合も同じです。重要なメールに紛れ込んでいる広告メールやポストに投げ込まれているチラシ、もしくはWebサイトを閲覧中に表示されるバナー広告に不快感を覚えたことはないでしょうか。Youtubeでお笑い芸人のコントを見ているときに、ネタを遮って表示されるサプリメントの広告。すぐに消してしまいたいのに、数秒間は強制的に閲覧させられます。
従来のテレビCMであれば許容できた広告ですが、昨今では無理やり勧められることを煩わしく感じるようになりました。なぜなら自分の欲しい情報は、必要なときにインターネットで手に入れることができるからにほかなりません。
現代の購買意思決定では、検索という行為が欠かせなくなっているのです。購買の前に自ら情報を取得するのが自然になったいま、求めていない情報を強制的に送ってくるアウトバウンド型のマーケティングは、少しずつその役割を果たせなくなったと考えることができます。
インバウンドマーケティング、何が優れているの? メリットは?
アウトバウンドマーケティングと正反対の特性をもつインバウンドマーケティング。各事業者がこぞって取り入れるには、相応のメリットがあるからと考えられます。インバウンドマーケティングで享受できる、企業経営・サービス提供へのメリットについて考えてみましょう。
メリット1:顧客に嫌われない
先述した訪問営業やチラシ、DM、バナーなど、自分が選んでいない情報を押し付けられることに、現代人は辟易としています。望んでいない情報、特に押し売りに近いサービス紹介を一方的に見せられることは、送り主に対して良いイメージを持つことが難しいといえるでしょう。
解説したとおり、流通する情報量は爆発的に増えています。対して、処理しきれる情報量は一定から微増。必要な情報を漏らさずに受け取るためにも、不要な情報は嫌われるのです。
しかしながら、企業のマーケティング担当者は見込み顧客の獲得が使命。手を変え品を変え、可能性の有無にかかわらず、商品の紹介を行ないます。本来のマーケティングとは、顧客と良好な関係を築き、企業やサービスのファンづくりが目的でした。ところがアウトバウンドマーケティングでは、努力すればするほどに嫌われてしまうという、なんともやるせない結果につながる時代となったのです。
対してインバウンドマーケティングは、欲しい人が自ら探しにくる仕組み。Webサイトに情報を置おておくことで、購入希望者が探しだして閲覧してくれるのです。
求められていない情報を押し売りすることがなく、ブランドやサービスへの悪い印象をいただかれる可能性が低い。インバウンドマーケティングのメリットのひとつですといえます。
メリット2:広告宣伝費を削減できる
目に見えて、しかも短期間で実感できるメリットのひとつに、コスト削減が挙げられます。従来の広告手法であれば、マスメディアに対して高額な費用を支払う必要がありました。テレビや新聞への出稿であれば、数千万円単位のコストがかかっていたでしょう。このコストを0円にすることも可能となったのが、インバウンドマーケティングの導入なのです。
マスメディアだけでなく、インターネット上のリスティングやバナー、eメールなどの広告費削減にも期待ができます。実際には、インバウンドマーケティングを実行しながらも、親和性の高いインターネット広告は併用するケースがあります。
ただし、インターネット広告を併用したとしても、インバウンドマーケティングを取り入れる以前と比較したら、大幅にコスト削減が可能です。それどころか、併用することでインバウンドマーケティングの効果を高めることにつながり、費用対効果の向上が見込めます。
メリット3:ターゲットを絞り込める
インバウンドマーケティングによる大きな変化として、広告の無駄がなくなったことも挙げられるでしょう。出稿の有無ではなく、出稿したのに効果が見込めない、もしくは効果を見込めない可能性がありながらも出し続けることをなくすことができるようになりました。
テレビや新聞、雑誌などマスメディアでは、できる限りたくさんの人々に見てもらうことが重要でした。媒体選びの基準として、視聴率や発行部数などを材料としていたことからも明らかです。
多くの人に語りかけ、反応してくれた人だけがサービスを利用する。まさに“広く告知する=広告”です。対して検索エンジンからの導線を強く意識することで、あらかじめサービスに関心の高い人に情報を届けることが可能となりました。
コンテンツの中に見込み顧客が検索するキーワードを盛り込めば、興味をもつ人にだけメッセージを届けることも可能となったのです。
最適な情報の送り先を選べることで、無駄のない出稿が可能になりました。しかも、興味・関心の高さから、実際の購入といったアクションにつながりやすいこともメリットに挙げられます。
メリット4:クチコミを活用すれば拡散される
インバウンドマーケティングを語る際に、切り離せないのがソーシャルメディアの流行です。広告費を削減しながら、より興味・関心の高い優良なリード(見込み客)に対して、必要とされる情報を届けられるようになり、ファンをつくりやすいマーケティングが可能となりました。
ファンに優れたコンテンツを提供すれば、ソーシャルメディアによってファンが勝手に、友人へ「情報のシェア」という行動をとってくれる可能性まで高まったのです。ソーシャルメディアによる情報の拡散は、これまでのどんな伝播手法より力強いことが分かっています。
六次の隔たりという言葉と実験があります。友人の友人の友人……と6名たどっていくと、世界中の人々とつながるというスモールワールド現象のひとつです。Facebookをはじめておするソーシャルメディアは、この仮説を基に構築されたといわれています。
しかしソーシャルメディアを代表とするクチコミのメリットは、情報拡散だけではありません。広告と比べ、知人からの情報提供という信頼の価値が付加され、意思決定にポジティブな影響を与えると考えられるのです。顔の見えない・名前も知らない他人からの助言よりも、専門家でなくとも友人に言われるほうが説得力があると考えられます。
インバウンドマーケティング施策のひとつとして、このクチコミの活用は切り離せません。広告では成し得なかったメリットを享受できるのです。この点については、後に詳しくご紹介します。
デメリットもある、インバウンドマーケティング
インバウンドマーケティングのメリットにフォーカスしてご紹介しました。今度は、デメリットについても触れてみます。メリットばかり説明されると、裏があるのではないかと勘ぐってしまうのが人間というものです。
インバウンドマーケティングを正しく理解いただくためにも、見方によってはマイナスの要因、知らずにはじめると「こんなはずじゃなかった」と思ってしまう部分を紹介します。捉え方によっては、デメリットと感じる部分があるかもしれません。
デメリット1:成果がでるまでに時間がかかる
インバウンドマーケティングの肝となるのは、用意するコンテンツの質と量。コンテンツを作成し、情報を求めている人から見つけてもらわなければ始まらないのです。コンテンツにたどり着く手段として、考えられるのは大きく2つあります。ひとつが先に紹介したSNS。もうひとつが、Googleを筆頭とする検索エンジンです。
検索によってコンテンツへたどり着いてもらうには、SEO(検索エンジンオプティマゼーション=最適化)と呼ばれる施策を実行します。SEOには、専門家や専門業者が多数いることからも想像できますが、知識とスキルが必要です。SEOが上手くいけば、見込み客が検索をしたときに、目に留まりやすくなります。逆に失敗すると、せっかくつくったコンテンツを見てもらえる可能性が下がってしまうのです。
コンテンツへの流入が実現できない場合には、インターネット広告の利用を検討する必要があります。クリック課金型の広告で、どのくらいのターゲットに届くか、また届いたコンテンツは適切なのかを確認し、最適でなければ調整をしていきます。
SEOにしろ広告をつかうにしろ、大事なのはコンテンツです。コンテンツを作成する前段階として、届けたい相手を見極める必要があります。ペルソナと呼ばれる、ターゲット像を細かく分析し定義し、彼らにとって有益な情報が何なのかを検討します。ペルソナを立てることで優れたコンテンツの定義が決まりますが、SEOと同様にマーケティングやペルソナ設定の知見が必須です。
インバウンドマーケティングでコンテンツを作成する場合、つくるまでに要する時間、見つけてもらうための工夫と時間が必要なのです。
デメリット2:情報発信の継続に人の力が必要
優れたコンテンツを用意することが成功のキーファクターである以上、コンテンツ作成に手を抜くことはできません。同時に、コンテンツの鮮度にも意識が必要です。情報量が膨大になったため、コンテンツが消費されやすいやすいといえます。ひとつのコンテンツだけで永遠に見込み客を惹きつけることが難しい時代になったのです。
本当に優れたコンテンツであれば、必要に応じて何度でも訪れてもらえる可能性があります。しかし多くの場合は、一度目にしたコンテンツは新鮮さが失われます。これは従来の広告にもいえることですが、常に新しい情報・時代に合う情報提供が必要なのです。
では、定期的かつ継続的にコンテンツをつくって発信することは可能でしょうか。先に述べたとおり、コンテンツを作成するのには時間がかかります。持続的にコンテンツを作成しつづけることは、想像よりもずっと難しいかもしれません。
解決策のひとつとして考えられるのが、コンテンツ制作の外注化です。社内に専任者を置いてコンテンツをつくる場合もありますが、それでも限界があります。仮に専任者がひとりしかいない場合、常にフレッシュなアイデアを考え、コンテンツを作成し、ユーザーからの評価にもとづき手直しをする。なかなか難しいことだといえます。そこで外部のパートナーをみつけ、定期的な更新体制を構築することが近道と考えられるのです。
デメリットよりも、メリットのほうが大きい!?
コンテンツの制作期間と継続性という、デメリットと捉えられる2点にふれました。従来の広告出稿であれば、お金を使うことで解決できたかもしれません。しかしインバウンドマーケティングにおいては、お金だけでは解決できない、地道な作業が必要となるのです。
アウトバウンドマーケティングからインバウンドマーケティングへの乗り換えは、無駄なのでしょうか。正解を導くことは難しいですが、導入時のコストと手間を乗り越えた結果、大きなメリットを得ているケースが大きいようです。メリットとデメリットが逆転するようなら、現状のインバウンドマーケティングは衰退するか、カタチを変えていくと考えられます。
では、どうして多くの企業が、100%成功すると言い切れないインバウンドマーケティングを継続するのか。ひとつには、インバウンドマーケティングで獲得するリード情報の価値になるでしょう。
得られる見込み客情報の確度が、アウトバウンドマーケティングと比較になりません。どのような経路で辿り着いたのか、どのような趣向があるのか、どのような属性なのかが、設定次第で獲得できるのです。このように、獲得できる情報の量や質から考えると、初期段階の苦労を乗り越え成長曲線に達すれば、費用対効果がとても高いマーケティング施策であるといえるでしょう。
インバウンドマーケティングとソーシャルメディア
インバウンドマーケティング成功のポイントとして、2つの施策をご紹介します。ひとつは先に紹介したSEO。もうひとつが、SMO(ソーシャルメディアオプティマゼーション=最適化)の対策です。
検索エンジンからの流入が太い導線となるため、SEOの必要性は語るまでもありません。また、もうひとつの施策であるSMO対策を行なうことが、インバウンドマーケティングを成功へ導くポイントとなります。
インバウンドマーケティングのメリットとして、クチコミやソーシャルメディアを活用した拡散について紹介しました。効果の高い施策であり、インバウンドマーケティングの成功には絶対に外せません。
近年では、ソーシャルメディアやブログなどの投稿内容が、「NAVER まとめ」のような『まとめサイト』に転載されることが増えました。本来であればソーシャルメディアの投稿は、タイムラインの更新とともに目につきにくくなる、フロー型、消費型のコンテンツとして短期的に消費されていました。
ところが、まとめサイトというメディアに転載されることで、ソーシャルメディアでの投稿内容がストック型のコンテンツとして焼き直され、ロングテイルでの流入が見込めるようになったのです。
このことからも、ソーシャルメディアでの投稿や消費者によるクチコミが、新しい顧客の獲得導線になっていると考えられます。逆にリスクとして、自社にとって(その真意はさておき)広めたくない情報も、未来の顧客となり得る人々へ届いてしまう可能性も理解しておきましょう。
知人によって発信されるソーシャルメディアやクチコミは、広告よりも信頼度が高いことはお伝えしたとおりです。信頼している友人によるネガティブな情報を聞けば、企業が弁明をしても聞き入られない可能性があります。好ましくないカタチで、ブランドイメージが形成されるかもしれないのです。
このようなリスクを回避するためには、SMO施策を実行する必要があります。リスク回避などのネガティブな要因だけではなく、ソーシャルメディアが新たなリード獲得の装置として機能するわけですから、SMO施策の立案と実行がインバウンドマーケティングのポイントとなるのです。
インバウンドマーケティングを成功させる4ステップ
インバウンドマーケティングのメリット・デメリット、必要性、ポイントが理解できたところで、具体的な成功のためのステップをご紹介します。インバウンドマーケティングが成功したといえるのは、これから解説する4つのステップが完了したとき。もっとも重要なポイントは、顧客になった=商品やサービスを購入してもらうことが最後ではない、という事実です。商品の購入が目的なのに、なぜ購入がゴールではないのでしょうか。
ステップ1:ユーザーを惹きつける
インバウンドマーケティングの肝は、顧客・ユーザーに自社の情報を見つけてもらうこと。従来の一方的に広告を送り届ける手法とは、最初の接点が大きく異なります。ではいかにして、ユーザーにポジティブな気持ちで自社のコンテンツにたどり着いてもらうのでしょうか。
一にも二にも、自社が展開するWeb上のコンテンツに訪問してもらえる、ユーザーを惹きつけるコンテンツを用意することがスタートです。ここでのポイントは、ユーザーを主体としたコミュニケーションを図ること。ユーザーは、どのような単語で検索をしているのか、どのような回答を欲しがっているのか、などを考えることです。
同時にソーシャルメディアでの拡散も意識し、ユーザーの先にいる「未来の顧客候補者たち」に興味をもってもらえるコンテンツの意識も必要です。
ステップ2:リードへ育成
ユーザーを惹きつけることに成功したら、次のステップはユーザーのプロファイル収集です。プロファイルとは、「輪郭」「横顔」「分析結果」「略歴」などの意味を持ち、ここでは属性などの情報群を指します。
多くのインバウンドマーケティング事例では、リード育成に必要となる情報として、Eメールアドレスの取得を行なっているようです。メールアドレスを取得すれば、ユーザーに対してこちらから情報提供が行なえるのは言うまでもありません。これまでの広告配信と異なるのは、アドレスの持ち主が自社の情報・サービスに興味を抱いているというアドバンテージです。
継続して情報発信する手段を手に入れたら、ユーザーのニーズを把握しながら、適切な情報を最適な手段で提供していきます。インバウンドマーケティングで用いられている手法としては、ホワイトペーパーやEブックの提供、動画の配信やオンラインセミナーへの招待などが考えられるでしょう。
ユーザーステータスに合わせた情報提供をすることで、なんとなく興味があった程度のユーザーを、見込み顧客へと育成していく機会が得られるのです。
ステップ3:顧客にする
3つめのステップは、見込み顧客となったユーザーに、商品やサービスの購入者になってもらう段階です。ここが、多くの人が想像するゴールかと思います。
このステップでは、リードを育成しながら(マーケティング用語で、リードナーチャリングと呼びます)、購入という意思決定までつなげることが目的です。見極めのポイントは、どの段階で購入というアクションを促すか。リードの育成が不充分な時点で販売を行なえば、時期尚早と判断した顧客は離れていくでしょう。逆に育成が充分なのに、いつまでも情報提供だけを行なっていたら、情報過多による顧客離れが危惧されます。
最適な育成状況を把握して見極めるには、育成プロセスの可視化やスコア化を行なうことが望ましいです。スコア化とは、育成段階ごとにポイントを決め、何ポイントまで進んだら購入を促すという目安を決めること。例えば、Webページに訪れたら◯点、メールマガジンを受け取ったら◯点、新しいコンテンツに訪れたら◯点、資料請求をしたら◯点、セミナーに参加したら◯点……と定め、◯点になったところで購入を促す方法になります。
これらの管理を支援して、仕組み化してくれるサービスに、マーケティングオートメーションツールなどがあります。上記のように設定した点数条件に応じて、自動的に次の施策を実行してくれるシステムです。名前のとおりマーケティングを自動化してくれる、効率的なツールといえます。
ツール使用の有無はさておき、大切なのは、リード段階では購入意思が定まっていない=育成が必要な見込み顧客(しかもとても優良)であると理解すること。充分で適度な情報提供こそが購入に結びつくことを忘れずに、ユーザー本意のコミュニケーションを行なっていきましょう。
ステップ4:顧客の満足獲得
購入してもらうことがゴールではないと、この項目の冒頭にお伝えしました。インバウンドマーケティングの最大のポイントともいえる、顧客の満足を高めるのが最終段階です。
多くのマーケティング・営業担当者であれば、見込み顧客をリード化し、購買に至ったところで満足してしまうもの。しかし、ここまで解説してきましたが、SNSやクチコミが影響力を持つ現代では、購入した顧客のフォローアップこそが、本当の意味でのマーケティングといえるでしょう。つまり、販売したらゴールではないということです。
既存顧客の満足度を高めることは、新しい見込み顧客やリードを獲得するチャンス。商品やサービスをクチコミなどで広めるインフルエンサーになってもらう、自社ブランドのファンになってもらうことが大切なのです。
また、購入済の顧客に、アップセルやクロスセル(購買単価の上昇、関連商品の購入)を仕掛けるチャンスでもあります。インバウンドマーケティングでは、双方向で持続的な情報提供が可能となりました。一度ファンとなってくれたユーザーと、継続的につながりつづけることが可能となったのです。
具体的な施策として、購入者だけが参加できるコンテンツの提供や、リアルな場でのセミナー開催をしても良いでしょう。定期的にメールマガジンやWebサイトの更新情報を送ることも効果があります。重要なのは、顧客が求める情報に対して、優良なコンテンツで応えることです。
インバウンドマーケティングの成功は、コミュニケーションと求められるコンテンツ提供が欠かせません。ポジティブに考えると、顧客と持続的にコミュニケーションをとることが可能となり、コストや時間をかけて作成したコンテンツを最適な人たちに届けることができるようになったのです。
インバウンドマーケティングって?まとめ
バズワードのような流行をみせたインバウンドマーケティングについて、その正体と効果・効能、やるべきことと正しい考え方をご紹介しました。
■インバウンドマーケティング=ユーザー自身に探してもらう「待ちの営業」
■広告を主体とする、企業が言いたいことだけ伝える手法とは正反対の手法
■インバウンドマーケティングの成功には、ユーザーのインサイトを考え抜く
■見込み客・既存顧客に、自社のファンとなってもらうマーケティング手法
■上手くつかえば、広告に投下した費用を大きく削減できる可能性あり
■インバウンドマーケティングは、成果が出るまでに時間がかかる
■ユーザーにとって、価値のあるコンテンツをつくらなければならない
■SNSの登場により、コミュニケーションが双方向化した
■インバウンドマーケティングは、商品を購入してもらったら終わりではない
日本国内はもちろん、世界的に見ても歴史の浅い、新しいマーケティング手法です。まだまだこれから、数々の変化が訪れるでしょう。同時に、登場して間もない概念・手法ですから、正解も正攻法もありません。逆に考えると、可能性は大きく、これから導入しても遅くはないということです。
この記事が皆さまがインバウンドマーケティングを取り入れるきっかけとなり、目的の達成に役立つことをお祈りしています。現場からは以上です。