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確定申告前に知っておきたい、医療費控除と高額療養費制度の併用

フリーランスと医療費控除

確定申告が近づくと、いかにして税金を戻させるかに苦慮するフリーランス・個人事業主が多いことでしょう。確定申告前じゃなくても、通院や入院を繰り返した場合や高額の医療費・療養費を支払ったときには、制度併用による確定申告を検討したいところ。想定以上に税金の戻りがあって、きっと家計の助けになるはず。

医療費控除と高額療養制度の併用で還付金を最大化しよう

『医療費控除』と『高額療養費制度』についてご存知でしょうか。前者は所得税控除の制度、後者は社会保険の制度です。名前くらいは聞いたことがあるかもしれませんが、正確に理解している人は意外に少ない。しかも「両制度が併用可能である」となると知っている人は激減すると予想します。

確定申告を前にして、いかに節税するか、手元に現金を残すかを考えるタイミングですから、『医療費控除』と『高額療養費制度』についても知っておくとお得。額の大きい医療費に関する話ですので、上手に活用したらリターンが大きいのです。

医療費控除ってなんなのさ

健康保険に加入していれば、医療費三割負担が基本的な共通認識となっています。しかし医療費が特に高額な場合、その三割分ですら1年間の総額を考えると大きくなり、ご家庭の経済状況を圧迫しかねません。

そんな医療費の負担を軽減してくれるような制度が医療費控除です。まずここではあまり知られていない医療費控除について解説していきます。

医療費控除の概要

その年の1月1日から12月31日までの間に、確定申告者又は生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合、その支払いの10万円を超える分(例外あり)について、一部控除を受けることができます。

控除金額の計算方法については次項で詳述します。税務署への申告に際して、確定申告書内の医療控除に関する項目を記入し、医療費支出を証明する書類を添付する必要があります。適切な申告が済むと、後日還付金を受け取ることができる、といった流れになります。

現在、医療費控除を受けていない場合でも過去の分の医療費控除を無駄にしてしまった訳ではありません。確定申告をしていなかった場合は5年前までさかのぼり、還付申告することができます。確定申告をしていた場合でも、1年以内に関しては更正の要求が可能ですし、1年よりも前の分も嘆願書を提出することができます。

また、医療費をローンやクレジットカードで支払っている場合でも医療費控除は受けることが可能です。その年に患者が払うべき医療費を信販会社が立て替えて支払った分が控除の対象となります。そのため分割して支払った金額ごとの控除になるわけではないということに留意してください。

控除金額計算方法

医療費控除の金額は以下のように計算し、上限は200万円です。

(実際に支払った医療費の総額)-(保険金などで補填される金額)-(10万円)

なお、「保険金などで補填される金額」の具体的な内容は、生命保険や健康保険への加入により受け取ることができる以下のような項目になります。

留意点として挙げておくと、総所得金額が200万円に満たない人に関しては、計算式の最後の項目が「10万円」ではなく「総所得金額の5%」となります。

対象となる医療費

医療費控除の対象となる費用についても覚えておきましょう。

など、さまざまな支出が該当します。意外なところだと、レーシックで視力回復した場合、手術費用、通院費用、通院交通費などが、医療費控除の対象となります。不妊手術なんかも入りますね。他にも、子供の歯科矯正にかかる費用や、自宅での介護に要する費用などが該当。

意外な医療費も控除の対象になるため、支払った医療費の中で控除を受けることができるものを見落としてはいないか、確認してみましょう。詳しいところは、国税庁の定める項目と照らし合わせておいてください。

高額療養費制度ってなんなのさ

大きな事故に遭ってしまったり、先端医療を要するような治療を受けたりする場合、健康保険ではカバーしきれない高額の医療費が必要となることがあります。

このような場合、働くことが一時的に困難になる、あるいは一括で多額の支払いを余儀なくされるなどのケースも多く、非常に不安になることでしょう。そこで有用なのが、高額療養費制度です。まずはその大まかな概要について解説します。

高額療養費制度の概要

家庭への高額な医療費の負担を軽減するため、医療機関や薬局で支払う医療費が1か月(1日から末日まで)で一定の金額を超えた場合、その超えた額を支給してもらうことができる制度になっています。

この支払う医療費は窓口負担金を指し、次項で解説するように自己負担の上限額は年齢や所得によって異なります。また、1回の支払が上限額に達していなくとも、複数受診や家族で合算することができる「世帯合算」や、年に4回以上負担の上限額に達する月がある場合は4回目以降の上限額が下がる「多数回該当」という仕組みもあります。これらの仕組みについても後に詳述します。

年齢や所得によって異なりますが、70歳以下であれば目安として上限額は8万円程度となっています。その名の通りの高額な医療費の支払いに対応した制度であると言えますが、「世帯合算」のような仕組みも存在するため、どなたにとっても他人ごとではありません。残念ながらこの制度の認知度はそれほど高くなく、利用し損ねている方も実は多いのかもしれません。

高額療養費制度の金額計算方法

高額療養費制度の利用を考える際、何よりも重要な項目は自己負担の上限額です。前述の通りこれは年齢及び所得金額によって定められているので、自分の世帯にはどれくらいの額が設定されているのかを確認しておく必要があります。

以下ではその上限額の計算方法を紹介していきます。

70歳未満の方の上限額計算方法

所得によって下記のように上限額が定められています。各医療機関での1回の医療費が21,000円を超えていれば、同じ月における他の医療機関の医療費も合算することができます。

適用区分 ひと月の上限額
年収約1,160万円以上 健保:標報83万円以上
国保:旧ただし書き所得901万円超
252,600円+(医療費-842,000)×1%
年収約770万〜約1,160万円 健保:標報53万~79万円
国保:旧ただし書き所得600~901万円
167,400円+(医療費-558,000)×1%
年収約370万〜約770万円以上 健保:標報28~50万円
国保:旧ただし書き所得210万~600万円
80,100円+(医療費-267,000)×1%
年収約370万円未満 健保:標報26万円以下
国保:旧ただし書き所得210万円以下
57,600円
住民税非課税者 35,400円
70歳以上の方の上限額計算方法

70歳以上の方の場合、外来における個人ごとの上限額も定められています。また、院外処方代を含む医療費の全てを合算し計算することができます。

平成29年8月の診療分からこの上限額が引き上げられてしまったため、注意が必要です。また平成30年8月以降にはさらに、所得が高い層を対象に細分化と、それに伴う上限の引き上げが行われます。

以下の表に平成29年8月からの1年間のみに適用される上限額をまとめておきますが、来年以降も制度変更に伴う上限額の増減を確認しておきましょう。

適用区分 外来の上限額(個人ごと) ひと月の上限額(世帯ごと・個人ごとも含む)
年収約370万円~
標報28万円以上
課税所得145万円以上
57,600円 80,100円+(医療費-267,000円)×1%
年収156万~約370万円
標報26万円以下
課税所得145万円未満等
14,000円(年間上限144,000円) 57,600円
住民税非課税世帯 8,000円 24,600円
住民税非課税世帯(年金収入80万円以下など)   8,000円 15,000円
世帯合算

すでに述べたように、自己負担の上限額を計算する上で、同じ世帯の方同士を合算することができ、高額療養費の支給を受けやすくするのが世帯合算の仕組みです。

1回の受診では上限額を超えないとしても、同月に複数回受診したり、同じ医療保険に加入している同じ世帯の方の治療費を支払われたりした場合は、すべての支払額の合計が上限額を超えていれば、高額療養費を受け取ることができます。

多数回該当

過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合は4回目以降の上限額が引き下げられます。入院等で長期にわたり医療費を支払い続けなければならない場合などは、この仕組みにより負担が軽減されます。引き下げられた上限額は下記のように、所得と年齢によって異なりますので確認してみてください。

・70歳未満の方

所得区分 多数回該当の場合の上限額
年収約1,160万円より上 140,100円
年収約770万~約1,160万円 93,000円
年収約370万~約770万円 44,400円
年収約370万円未満 44,400円
住民税非課税者 24,600円

・70歳以上の方
住民税非課税者の場合、3回目までの上限額からの変動はなく、その他の70歳以上の方が多数回該当の場合は一律で上限額が44,400円になります。

医療費控除と高額療養費制度の併用

『医療費控除』と『高額療養費制度』について解説してきましたが、本番はここから。お得な両制度は、併用することが可能です。同じ医療関係の制度だからといって、片方しか利用できないわけではないのです。

「制度を併用できるってことは、税金がたくさん戻ってくるの?」と期待しますか? その通りなんですが、併用するには決められた手順があり、注意点もあります。両制度の恩恵を余すことなく享受するために、以下を読み進めてくださいね。

併用の手順

まず、医療費控除の控除額計算式の中で「保険金などで補填される金額」と示した項目には高額療養費制度にて支給された金額も含まれます。そのため、最初に高額療養費制度の申請をし、支給金額が確定してから医療費控除の申告をすることになります。

両制度ともに医療費を支払った月の分を申請しなければならないため、例えば12月の分の医療費に関して高額療養費制度を申請したとして、その分が確定申告までに給付されなかった場合には見込みの給付金額で申告します。実際の額が見込みと異なっていた場合は申告しなおす必要があるので注意が必要です。

『医療費控除』と『高額療養費制度』の併用まとめ

医療費控除と高額療養費制度について解説してきました。両制度の特徴と、対象となる医療費の範囲を正しく理解し、これらの制度をうまく利用して、普段の医療費やいざという時の負担額の軽減に努めましょう。

以上、お付き合いいただいている税理士事務所さんによる寄稿でした。

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