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ベーシックインカムならぬベーシックワークで、ライターの仕事保証

ランサーズの仕事保証制度

クラウドソーシングのランサーズが発表した「月10万円の仕事を保証する制度」について、ライター界隈の人が少し反応していました。フリーライターに対して、ランサーズが毎月一定の仕事を保証するとか。営業活動をせずとも仕事がもらえるなら、それは美味しいのではないかと思います。発表内容については以前の投稿で触れていますが、気になるのはその中身。2018年7月10日に行なわれた、『仕事保証付Webライター塾』の内容をご紹介します。
※投影資料はconfidentialと記載がありましたが、写真撮影はOK・録音はNG、ブログへの投稿はOKとのことでしたので、当ブログでは表示しています

ベーシックワークで仕事を探す手間がなくなれば、収入が増える?

仕事を保証するベーシックワークの目的は、毎月一定額分の仕事を保証することで、『可処分時間増』と『可処分所得増』を実現し、個が持つ様々なタレント(才能)の発揮を最大化することだそう。いまいちピンときませんが、要は「仕事を探す時間を削減して、受注した仕事を遂行する時間を増やしましょう」ということみたいです。

ちなみに画像の円グラフ左側、6時から10時くらいを占めている水色部分(全部が水色ですが)が、『仕事を探している時間』のイメージ。円グラフ右側のように、該当時間を0にできれば、『仕事をする時間』を増やしたり、『専門スキルを習得する時間』を増やすことができるという説明でした。セミナーでは中企庁の資料を元に、フリーランスが抱える課題として『顧客の確保』と『専門技術の習得』が高い比率であると紹介されました。当該制度によって、この2大課題を解決しようと目論んでいるようです。

ベーシックインカムならぬ、ベーシックワーク

またベーシックワークの着想元となっているであろう『ベーシックインカム』との違いについても解説がなされています。ベーイックインカムについてご存じない方のために、その意味を確認してみましょう。

ベーシックインカム(basic income)とは最低限所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して[1][2]最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を定期的に支給するという政策[3][4][5][6]。基礎所得保障、基本所得保障、最低生活保障[7]、国民配当[8]とも、また頭文字をとってBIともいう
引用:Wikipedia

ベーシックインカムとは、仕事をしなくても、一律で一定金額の現金を支給する制度です。ノーワークノーペイの基本原則を崩し、国民の全員にお小遣いをあげちゃう制度になります。「え? 僕はもらってないけど」と思った方はちょっとお待ちください。日本においてはまだ導入されていない制度なんです。日本のみならず、現時点では国家レベルで本格的に導入している国は存在しません。

国家レベルではないと記したように、地域レベルではいくつかの実験が開始されています。ベーシックインカムの試験的導入に積極的なのは、主にヨーロッパの地域が挙げられます。欧州がベーシックインカムに乗り気な理由は、社会保障制度が複雑であること、多層的であることが理由。失業者が社会保障を受けた場合、国や地域にもよりますが、生きていけるレベルで生活が保証されます。しかし本人の努力などによって低収入ながらも仕事を得ると、社会保障は打ち切られ、結果として生活水準が下がってしまうという現象が起きているのです。

労働に喜びを感じる人であれば問題ないのですが、多くの人は生活水準を落としてまで仕事をしない。社会復帰をする気持ちがなくなる、労働意欲を減退させる社会保障制度になっていると考えられます。失業率が高まってしまった欧州においては、社会保障制度によって失業率が低減しないとう悪循環に陥っているのです。であればいくつかの社会保障を撤廃して、一定金額を支給することにより、低収入であっても失業者が仕事を探すように仕向けることを期待しているわけです。

フィンランドは国家レベルでベーシックインカムの試験に乗り出した

2017年になってから、北ヨーロッパの共和国:フィンランドにおいて、国家レベルでのベーシックワーク導入が試験的に開始されました。経済の低迷が長期化し、失業率は高まり続けているフィンランドにとって、ベーシックインカムの制度化が国家の安定においての打開策になると期待されているのです。

この実験は2017年1月1日に開始され、2018年12月までの2年間を期限として実行されました。つまり今年いっぱいで実験が終了し、来年以降にその成果と本格導入が議論されるのでしょう。一点補足すると、フィンランドにおいても国家レベルではあるものの、試験導入という位置付けです。国民全員を対象とはしておらず、支給対象は無作為に選出された2,000人の失業者。2,000人に対して毎月、日本円で5万6,000円が支給されているそうです。

オランダでもベーシックインカム試験が始まっている

実はフィンランドよりも早く、オランダでは2016年1月から試験導入が開始されています。こちらは地域限定の試験で、オランダ第四の都市『ユトレヒト』で実験が始まりました。受給者は300名程度と少数でしたが、2017年には対象が拡大され、2万人以上の人々にベーシックインカムを支給しているようです。

1970年代に実験をしたカナダ

ベーシックインカムの歴史はさらに遡ることができて、ついでなのでご紹介します。カナダにおいては、1974年〜1979年=40年以上前にベーシックインカムの実験が行なわれました。『Mincome』と呼ばれた実験でしたが、本格導入される前に政権交代が起こったため、頓挫しているようです。ただし『Mincome』には成果があったと、2011年に研究発表されています。長時間労働をしいられながらも貧困を脱せなかったワーキングプア層において、彼らの生活が安定したという結果です。

労働意欲の減退を理由に国民投票で秘訣されたスイス

永久中立国のスイスでは、国家レベルでのベーシックインカム導入が検討されました。2016年6月に世界で初めて、ベーシックインカムの導入に対する国民投票が行なわれたのです。結果は否決。財源確保や労働意欲の低下を懸念点として、国民の賛同が得られずに終わりました。

貧困撲滅を掲げての制度化で、成人すべてに2500スイスフラン(日本円で約27万円)の月収を保証する目論見でした。支給の条件は、収入が2500スイスフランに満たない場合において、不足分を補うというもの。仕事などでなんらかの収入を得ている人で、2500スイスフランを手にしている人にとっては何の得もない制度、2500スイスフランに満たない労働者にとっては、働く必要のなくなる制度であったことが、国民の多数に否定された理由でしょうか。

住むだけで1,000〜2,000ドルを得られるアラスカ

地域単位ではアラスカが、すでにベーシックインカムを取り入れています。州税がかからないため、住むだけで収入が得られる仕組みです。アラスカ州で導入できた理由として挙げられているのが、州営の石油パイプラインが運営されており、公益ファンドを通して住民に分配できるからだとか。

実は国家レベルでベーシックインカムが導入されているブラジル

国家レベルでベーシックインカムを導入した例はない、と記載しましたが、実はブラジルは例外的に取り組みが進んでいました。ただし先述してきたベーシックインカムとは異なり、『ボウサ・ファミリア』という所得制限付の児童手当だけが該当します。貧困が理由で教育を受けられない児童に対して、ベーシックインカム的な手段によって機会の均等化を図る狙いです。ブラジルにおいては国家的に財政面の課題があるため、国民全員に無条件でベーシックインカムを支給するのは困難だと予想されています。

ベーシックインカムよりもオイルマネーで保証するカタール

ベーシックインカムの制度ではありませんが、中東のカタールにおいては、消費税・所得税が課されず、病院の診察、大学までの教育費、電気・水道・光熱費がすべて無料の制度があります。生まれ変わるならカタールに! と思えますが、この制度を成り立たせているのはオイルマネーの存在。世界有数の原油生産量を誇るカタールにおいて、原油輸出によって世界中からお金を集めることが可能なのです。

仕事を保証されるためには、有料の講座を受ける必要あり

ベーシックインカムとベーシックワークの違いは、無条件で現金を支給するのではなく、仕事を提供することで収入を得てもらう施策ということ。ベーシックインカムの失敗例や懸念点である、財源の問題と労働意欲の低下に対して、『魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える』ことで課題解決を図るようです。やりたいことは理解できました。

計算通りにいけば、確かにフリーランスにとってのメリットが大きいと思えます。問題は、保証される仕事の内容とその量ではないでしょうか。1万円の仕事を保証されたとしても、仕事量が膨大で、三日三晩の時間を要するとかでしたら、「保証されることが迷惑」という残念な結果に。ランサーズが打ち出した『仕事保証付Webライター塾』においては、入塾が条件となっています。しかも有料の講座を受けることが必須。受講者、塾生は毎月1万円を支払って、一定の条件をクリアすると仕事が発注されるとのこと。

仕事保証付Webライター塾は、内職商法に当たらないか

世の中って甘くないですね。無条件で仕事をもらえるのかと思ったら、お金を払って講座を受けなくてはいけない。ここで気になるのが、悪徳商法のひとつである『内職商法』に該当しないかという点です。

内職商法(ないしょくしょうほう)は、内職(在宅ワーク)の募集を装い、利殖商法に誘いこむ悪徳商法の一種[1]。通常、内職と報酬の提供を条件にして商品を購入させる業務提供誘引販売取引は商品販売後の内職の委託を目的とするが、内職商法の場合は商品の販売が主目的となる。結果、商品販売後の内職の斡旋が行われないため、受託者は約束された報酬が得られず、購入代金の負担だけが残される。また、内職の斡旋が行われても不明朗な理由による大幅な報酬の減額により、やはり約束された報酬を支払わないケースもある
引用:Wikipedia

つまり、「仕事をあげるから、まずはこの教材を買ってくださいね」と勧誘しておいて、実際には「教材で勉強して、実力がついた人にしか仕事はあげないので、あなたはごめんなさい」と言われるパターンです。結果、受講料を取られただけで、一切の収入にならないという、真面目に働こうとしている受講者を不幸のどん底に突き落とす、貧困ビジネスの極み。ランサーズほどの出来上がった企業がやるには、リスクが高すぎるのと、決して許されない悪徳商法です。

ただし今回の『仕事保証付Webライター塾』については、内職商法の心配はないのかなと安心できそうな説明がありました。内職商法によるトラブルの大半は『仕事の内容と報酬の根拠が契約書において不明確』なケースが挙げられます。本取り組みにおいては、契約書の有無は確認できていないものの、仕事内容と報酬の根拠が明示されています。かつ説明会においては、『仕事を保証できなくなるケース』として、明確な条件について説明がありました。

仕事保証付Webライター塾で保証される、月額最低保証額、単価、仕事内容、費用

写真では文字が小さくて読み込めないため、当日のメモを元に保証内容を表組みにしてみました。

項目 内容
最低保証月額と募集人数の内訳 3万円/6名、最低月額5万円/3名、10万円/1名
仕事内容 執筆ジャンルは選べませんが、得意ジャンルは考慮します
※執筆以外(編集/校正/校閲/入稿等)を依頼する可能性もあります
文字単価 1円以上
※単価は案件によりますが、最低1円はお約束いたします
保証期間 Min3ヵ月~Max6か月
※後述します
ほか 万一、月額保証に満たなかった場合は、翌月に持ち越して、コミットします
5万円保証の例)8月4万円だった場合は、9月6万円保証

説明によると、入塾可能な人数は10名が上限。補償額は3コースに別れており、3万円・5万円・10万円の仕事が保証される仕組みです。どのコースも月謝が1万円なのかは説明されていませんでしたが、共通であることを期待します。気になってしまうのが、提供される仕事の種類です。いわゆるライティングだけでなく、校正や校閲、入稿までが該当とのこと。

また執筆において(どの工程においてもですが)、記事のジャンルが選べないそうです。参加者からの質問で「たとえば私が10代の女性が書く記事を任されても困る」(40〜50代の男性)という意見がありました。確かにその通りで、おじさんに女子高生が書くべき内容を期待されても困ります。ランサーズからの回答は「ジャンルは選べないが、無理のない仕事を依頼する」というギリギリの回答。期待したいのは、受講生の得意不得意を理解した上で、無理のない仕事を渡すことですね。「おじさんでも、女子大生のことならわかるでしょ。じゃあせめてOLについてなら」と言われても、無理な人には無理ですから。

ベーシックワークが保証される条件

内職商法に当たらないように注意深く設計されたように思える、『仕事保証付Webライター塾』ですが、仕事が保証されなくなるケースについても説明されました。こちらも文字が小さいのでテーブルを組んで記載します。

項目
納期遅延 約束した納期に間に合わなかった場合
依頼をお断りされる場合 ご依頼したが、ランサー様のご都合で受けられないとなった場合
継続的なやり取りが難しいと判断した場合 コミュニケーション上、仕事が円滑に進まなかった場合
品質 クオリティ品質が著しく低下してしまった場合
塾に参加できなかった場合 塾に毎回参加できなかった場合
※理由により1回まではOKとします
塾にて、課題をクリアできなかった場合 塾にて、保証のための課題を卒業までクリアできなかった場合
※仕組みは後述します
退会した場合 ランサーズを退会してしまった場合
その他弊社との信頼関係がなくなったと客観的に判断されるとき

気になったのが、『依頼をお断りされる場合』と参加者からの質問への回答。明らかに無理な仕事でも、断った場合は「依頼を断ったので、仕事保証は打ち切りです」と言われるリスクが残っています。また発注の頻度や間隔はどうなっているのでしょうか。月末最終日に10万円分の仕事を依頼されても、物理的に『約束した納期に間に合わなかった場合』が発生する可能性が。ここでいう『約束』とは、一方的な納期の指定でないことを願います。

仕事保証付Webライター塾の内容は

保証内容や仕組みについて、いくつかの疑問と懸念点がありました。すべてが安全に運用されるとして、もうひとつ気になるのが講義の内容です。ライターとして腕を磨ける内容になっていなければ、仕事保証の期間満了後に、結局はライターとして生きていけないことに。ランサーズの功罪でもある、ライターを身近にした功績/ライターの敷居を下げすぎた罪がによって、ライターワーキングプア層を増やしてしまうのではないでしょうか。

テーマ 内容
ライターと言う職業 ◆webライターとは
◆クライアントワークとは
◆編集者との違い、付き合い方
ライティング基礎~応用 ◆基本的な作文作法
◆伝わる・伝える文章
◆用字用語
企画力 ◆なぜ企画力が必要なのか?
◆情報収集~整理~意味付け
◆ペルソナ設計/トレンドを読む
取材力 ◆取材の心得/質問票の作り方
◆メール取材/電話取材/インタビュー
◆ワークショップ/写真撮影ノウハウ
SEOについての理解と実践 ◆SEOの基本
◆キーワードの活かし方
◆SEOライティングのテクニックTips
著作権や引用ルール ◆著作権の定義
◆引用・転載と、剽窃
◆その他、知っておきたい法律ルール
外部講師による特別授業 ◆有名雑誌編集長
◆著名作家・コラムニスト
◆すぐに役立つエピソードトーク

授業カリキュラムは上記の内容だそうです。肝心な中身はわかりませんが、基本的な内容は網羅されているように思います。パンフレットやポスターなど紙媒体のライティングをするには、印刷物の知識などが必要ですが、ここでは学べない模様。Webライター塾ですから、なんら問題はないのですが。

また講師についても紹介されていました。『元・週刊ザテレビジョン編集長』『元・東京ウォーカー編集長』『宣伝会議登壇歴』『元・上場企業オウンドメディア編集長』『THELANCER編集長』『ライター採用/育成多数』という経歴を持った方々が教えてくれるそう。THELANCERというのはランサーズのオウンドメディアなので、その実力はわかりませんが、編集者や企業においての実務経験や育成経験があるようです。

受講生のレベル

以上が『仕事保証付Webライター塾』の内容で、この説明会には20名と少しの希望者が参加していました。説明が終わったのち、筆記試験と面接が実施されています。筆記試験の内容は、『桃太郎を50文字以内で要約せよ』というもの。一昔前の出版社において、新卒採用の課題に取り入れられていた内容ですね。どんなテストが課されるのかドキドキしていましたが、思ったよりもまとも、玄人な出題で良い意味の驚きがありました。受講希望者のレベルはわかりかねますが、このお題でテストされているのは以下の内容だと予測します。

正解は発表されていませんが、肝となるのは、無駄を省いて50文字の制限内に必要な内容を盛り込めるか。例えば『大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこ』という印象的なフレーズがありますが、『どんぶらこ、どんぶらこ』を書いてしまうと、それだけで11文字=20%を消費してしまいます。残りの40文字足らずで全体を表現するのが難しくなるのです。また起承転結を意識しないと要約になりませんから、以下のどれかが抜けていると減点対象になるのではと予想されます。

やりがちなのは、先述した『どんぶらこ』系の無駄な文章を入れてしまうこと。もうひとつが、鬼を倒したところで物語が終わってしまうことでしょう。起承転結の結びとしては、鬼が村から奪った財宝を取り戻して帰村して平和に暮らすところまで。文章のブログらしく、ちょこっと文章術について触れてみました。

受講者からの質問で印象的だったのが、『2,000文字を書くのは一苦労なので割りに合わない』と『桃太郎の要約のターゲットが不明』というもの。前者については、質問者の方がなかなか理解しておらず、『3万円の補償額で最低文字単価の1円の場合、4,000文字で25記事』と間違った認識をしていましたが(保証される仕事の最低額として、1文字あたり1円の仕事/1記事あたりのボリュームは2,000〜4,000文字:運営者発表)、何度説明しても理解できない様子でした。理解できたところで、2,000文字を書くのが難しいという人物に対して、この塾ではどう成長させるのか興味深いところ。

後者においてはお題が要約なので、要約のターゲットが誰かを考えるのはナンセンスかなと思いました。ちなみに面接では、ランサーズ社の人2名程度に対して、受講希望者が3名くらいの集団面接でした。主に質問されたのは、ライターとしての経験・稼働時間(働き方)・ITやPCのリテラシーです。面接は和やかな雰囲気だったので、あまり人前に出ないライター(および希望者)であっても、緊張せずに話ができたのではないでしょうか。

また同じ面接の組には、有名な雑誌やメディアで執筆しているライター経験者もいました。彼らは保証される仕事および収入が目当てというよりも、ライターとしての成長であったり、実証実験そのものに興味を持っていた印象です。

実証実験の成功は、フリーランスを選びやすくする

民間企業として初めての取り組みということで、まだまだ改善余地がありそうですが、兎にも角にも、チャレンジしたことが興味深いです。本稿で指摘したような内職商法にあたらないこと、無理難題を押し付けないことに期待しながら、フリーランスおよびライターが安心して働ける仕組みづくりに注目します。現場からは以上です。

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